式年遷宮記念せんぐう館
ずっとそこにあったかの如く
ずっとそこにあったかの如く

この作品は、平成25年に第62回をむかえた伊勢神宮の式年遷宮を記念して、その歴史や意義、しくみを支える伝統技術等を社会に向けて発信するべく建設されたミュージアムのランドスケープである。敷地は豊受大神宮(外宮)に隣接する宮域の森を背景として広がる勾玉池の畔にあり、神事に使用される植物を含め多様な生物と植物が水を介して複雑に関係しある生態系が存在していた。この場所のランドスケープデザインでは、式年遷宮の歴史と意義を明瞭に顕在化させる建築の前景と背景をしつらえること、神宮をして神宮たらしめている宮域の自然に接続し同化する環境を創造することの2つのテーマを掲げて設計と監理にあたった。

前者については、建築設計者とともに建築の配置とその前後に広がる領域の空間的・景観的関係を徹底的に検証し、水面に接する配置とすることで建築と池との間に他の要素が介在することを避けた。その結果、せんぐう館から勾玉池を経て宮域の森へ連続する視覚的関係を純化させている。また、池の中に浮かぶ島状の菖蒲田のうち建築に近いものではショウブをカキツバタに置き換え、植栽基盤を水面下に設けることで水面の分断を解消することを試みた。さらに、新設のバス駐車場では、既存樹をできるだけ多く保全しつつ建築の大屋根の視認性を高めるレイアウトと動線計画を実現している。後者については、建築と周辺の環境が「ずっとそこにあったかのように」感じられることをめざし、既存樹木群の選択的かつ戦略的な保存とポジティブな意味での曖昧さを内包したディテールデザインによって対応した。具体的には、国立公園の保護地域における行為制限の許容範囲内において、池の周辺では多孔質で植生を加えた伝統的な空積み護岸を、従前からの菖蒲田では宮域及び地域河川の流域から採取した在来植物の種子を生育した植生ターフによる畦状護岸を採用し、どこかに隙間と混沌をあらかじめ組み込んだ造形を指向している。

住所:三重県伊勢崎市
規模:16,000m2
竣工:2012.03
事業主:神宮式年造営庁
協働/建築:栗生総合計画事務所
受賞:日本造園学会賞(2014)

photo : Hayato Wakabayashi