平等院鳳翔館
切れ目なく連続するシークエンス
切れ目なく連続するシークエンス

新しい宝物館「鳳翔館」は、開創950年を迎える平等院の境内の一角に建設されている。昭和40年代はじめに建てられた収蔵庫が老朽化したことに伴い、最先端な技術を導入することによって、多数の国宝をはじめとする文化財を保存するための良好な環境を整えることが第一の目的であった。また、年間80万人にのぼる拝観客に対して、これらの文化財を公開するための施設としても構想され、宗教法人としては数少ない総合博物館(登録博物館)となっている。この博物館が「テンプルミュージアム」と称されている所似である。

現存する鳳凰堂は、建築、彫刻、絵画、工芸品が一体化し、国宝が極めて高い密度で集積する空間である。さらにその周囲は、国内でも稀な浄土庭園の遺構がひろがるが、その復元整備事業によって、建設当時の姿が時を経て私たちの眼前に現れ、鳳凰堂の建築と一体になった浄土庭園のランドスケープを彷彿とさせることとなった。しかし一方においては、境内の周辺に指定されている風致地区の外側で高層マンションが建設され、それらが鳳凰堂の正面から見えてしまうという風景問題も発生している。この施設の建設は、自治体による景観行政の無策に対して、歴史的環境や景観の保全はかくあるべき、というクライアントの確固たる意思を表明する機会でもあった。新しい鳳翔館は、平等院の境内とその周辺のランドスケープをめぐるこうしたコンテクストとの密接な関を意識しながら設計され建設されたものである。

まず、新しい宝物館の建築は、鳳凰堂と浄土庭園がつくりだす景観に対峙し拮抗するものであってはならないということが前提であった。そのため要求された床面積と建築ボリュームを、地盤レベルの高低差を利用して小高い丘の地形にはめ込んでいる。この方法によって、制約の多い敷地の中で多数の文化財を収蔵展示する空間の大部分を確保しつつも、それが建築のマスとして認識されることがない。既存の敷地条件を見方につけたサイトデザインによって、歴史的なランドスケープを保全しつつも、良い意味における新旧の空間的緊張関係を創造している。

宝物館の動線は、境内を拝観する人たちが辿る順路に組み込まれるように計画されている。拝観者の大半は鳳凰堂を中心に時計回りに設定された順路を辿り、正面から鳳凰堂の建築と阿弥陀如来の尊顔を拝した後、池の南側に回り込み、地下階の入り口から宝物館に入る。この後、地下の展示室を経由して鳳凰堂の南側の丘の上に位置する宝物館の地上階に上るわけだが、この間の空間体験は境内のランドスケープから切れ目なく連続するシークエンスによる。このシークエンスの展開が、いわゆる回遊式庭園の場合とやや趣を異にするのは、そのプロセスに展示室という閉じた空間が挟み込まれていること。ほの暗い空間で、仏像や絵画、美術工芸品に対峙した後に地上部に上がると、それまでとはコントラストをなすように、明るく開放性の高い空間の外側にひろがる緑がことのほか鮮やかに目に飛び込んでくる。

さらに宝物館の地上階では、従来にはなかった新しい空間と景観の視点場が創出されている。これには、宝物館の敷地の大部分が国指定の史跡・名勝の範囲外にあったことが幸いでした。高さの異なる3枚のフラットルーフの組み合わせによって天空を覆った吹き抜けの空間からは、鳳凰堂の建築ディテールを、斜面の立木の枝越しに至近に見ることができる。また、一番低い屋根の下に設けられた緑側に座れば、丘の斜面から連続するランドフォームを模した苔のマウンドを前景として、宇治川の対岸に位置する山々の稜線が遠望される。これらはいずれも、平等院の創建当時から存在してきたランドスケープの新しい一面を垣間見せてくれる場所である。

住所:京都府宇治市
規模:30,600m2
竣工:2001.03
事業主:宗教法人 平等院
協働/建築:栗生総合計画事務所