高志の国文学館
開かれた庭と屋敷林
開かれた庭と屋敷林

敷地は富山市の中心市街地に近い旧富山県知事公舎と隣接する土地を含め、神通川旧河道の名残をとどめる松川沿いにある。「蔵と土間」 をキーコンセプトとして構成された文学館の建築と渾然一体となるランドスケープをめざし、建築家との緊密なコラボレーションのもとに意匠設計をすすめたものである。

建築の造形に呼応するように、ランドスケープデザインでは「屋敷林と庭」をテーマとした構成を意図している。屋敷林とは、旧知事公舎の雑木の庭が有する特徴をできるだけ尊重しつつ、そこに新たな価値を付加したもの、という意味であり、富山平野に散在する屋敷林(垣入・カイニョ)のイメージを映している。一方、庭とは、旧知事公舎と文学館の周辺にうまれたいくつかの屋外空間を、それぞれのロケーションに固有のコンテクストにそってブラッシュアップしたものである。

屋敷林では、雑木を中心に豊かな緑を湛えた旧知事公舎の庭を、東側に向かって大きく開くことによって文学館のロビーとの間に明快な視覚的関係を構築し、2つの建築によって共有される空間としている。この庭は、既存樹林をできるかぎり保全しつつ林床の植物を整理し、全体の緑量を維持しながらも季節感と透明感のある空間として再生した。文学館との間にしつらえた水盤が、建築と庭のほどよい距離感と開放感をもたらしている。

また、2つの建築の北側では、富山市中心部の市街地とつながる2つ庭、花の庭と石の庭をしつらえ、街路に対してそれぞれに特徴のあるアルコーブの空間を提供しながら、緑豊かな街並の形成に寄与している。一方、文学館の南側では、富山におけるサクラの名所である松川沿いの遊歩道から直接アプローチする前庭として、明るく開放的な景観を形成している。幾重にも反復する芝生のアンジュレーションは富山平野にひろがる田園景観をイメージしたものであり、その背景には散居集落の屋敷林を彷彿とさせる旧知事公舎の樹林がたたずむ、という構図になっている

住所:富山県富山市
規模:13,700m2
竣工:2012.07
事業主:富山県
協働/建築:CAn、岩井達弥光景デザイン事務所