本計画は、UR都市機構が進める大手町土地区画整理事業(施行面積:約17.4ha)の一貫として、日本橋川沿いに整備された延長約780mの歩行者専用道(以下、歩専道)である。ここでは親水空間を取り巻く4つの「環境」(自然・都市・歴史・生活)をキーワードとして快適な歩行空間の創出を図った。
「自然環境」の面では、皇居から隅田川を経由して東京湾へ至る水と緑のネットワークの一部となる緑量を確保し、また、皇居やその周辺に生息する生き物の中から出現頻度の高いチョウ類や鳥類を誘致指標種に設定し、食餌植物を織り交ぜた植栽計画で歩専道内への誘致を試みた。「都市環境」の面では、保水性舗装の導入や浸透桝の設置、ポールスポット灯による木漏れ日のような夜間照明などにより、光や陰、温度や湿度などが快適にコントロールされる空間づくりを試みた。「歴史環境」の面では、江戸小紋をモチーフにした石張舗装、江戸後期の地図と現在の地図を重ねて表示した案内サインなどにより、まちの地歴を景観要素として活用することを試みた。「生活環境」の面では、周辺のオフィス街の人々に安らぎを提供する場として、四季の季節変化が楽しめる植栽や昼食時にキッチンカーが進入できる空間の整備などを行った。
そして、これら4つの「環境」と歩専道内で想定される様々なアクティビティをちりばめた街の風景を一幅の絵巻物『日本橋川環境絵巻』として紡ぎ出すことを目指した。さらに、その絵巻物を緩やかに蛇行する敷地形状と立地特性をきっかけにして丁寧に「折り込む」ことで、総延長が長い歩専道空間のアクセントとして、賑わい拠点となる十箇所の見所をしつらえた。
また、事業区域内で先行して整備される歩専道は、上位計画に基づく街づくり展開を地区全体へリレーするための基盤として、一貫した整備水準を持続する軸空間としての役割を果たしている。今後、歩専道で試みた様々なデザインは、連歌のように各街区に引き継がれ、事業区域全体が仕上がっていく。
住所:東京都千代田区
規模:9,120m2
竣工:2014.03
事業主:UR都市機構
協働/建築:岩井達弥光景デザイン事務所