立正佼成会大聖堂

東京都心の外郭をなす環状7号線の西側半分を南に向かって移動していると、青梅街道をすぎてしばらくいったところで、一瞬ではありますが視界が左右に開ける場所があります。左手には新宿副都心の超高層建築群が遠望され、その手前には特徴的なシルエットの2つの建物がひときわ目を引きます。宗教法人・立正佼成会の大聖堂と普門館ホールです。伝統仏教を基盤としながら人格の完成と世界平和を願い、国内外に多数の会員を擁するこの教団の本拠は、しかし、おどろくほどオープンです。昭和30年代後半にこの地を拠点として以来、漸次整備されてきた宗教施設群は、既存の市街地の中にとけこんでいて、その敷地境界はほとんど認識されず、会員でない地域の人々も、さもそれが当然であるかのように、通勤・通学や散策に境内地の中を通り抜けています。今回のプロジェクトは、このようにオープンな境界に緑を中心とした整備をほどこし、その領域を明確にしつつ地域社会に貢献することを目標とする長期的な事業の第一段階となるものです。

 今回の環境整備事業のプログラムは、3つに大別されます。一つめは参道の整備。境内では、東西ならびに中央の3本の参道が大聖堂に向かって延びています。いずれも、会員の方々が大聖堂を参拝する際にたどる道行きであるため、勾配に配慮しつつ、歩きやすく、それでいて清らかな心持ちが醸成されるような佇まいをめざしています。二つめは広場の整備。大聖堂の東側にひろがっていた植栽地の既存樹を極力保全しつつ、多くの人々が集うことのできるスペースを整備しています。また、西側の参道脇には居心地の良さを最優先した小さなサンクン広場をもうけ、さらには、団体の参拝に対応したバスロータリーの整備も景観上の重要性が高いものとなっています。もちろん、これらの参道と広場は、常に地域の人々に開かれていることが条件でした。さらに三つめは、環状7号線を起点として敷地を東西に貫く本通り沿いの景観の整備です。この街路は、広大な敷地の中心軸に相当するもので、街路レベルから見た全体のイメージを決定づける効果があります。

 このような3つのプログラムに対して、具体的なデザインでは、「生命感」「清浄さ」「柔らかさと円み」という3つのキーワードによって表現される形態やテクスチュア、色、素材感などを追求しています。たとえば「生命感」は、全体の植栽計画を通じて表現しようとしました。武蔵野の原風景を構成する植生にみられる多種多様な植物を組み合わせることや、大きく成長した既存樹、特にカナリーヤシやヤタイヤシなどの活力を維持できる植栽基盤の整備などが具体的な手法です。「清浄さ」は、豊かな緑と参道や広場の舗装面を覆う白色系のミカゲ石とのコントラストによって表現されています。舗装面の仕上げや割付け、パターンなどは、極力シンプルなものにおさえられており、緩やかな勾配をもつ東西の参道や広場を進む間に目にする面としての存在感を重視しました。また、中央の参道に相当する「中央波羅蜜橋」では、大聖堂に向かって延びる参道の直線性が、一枚の白い床によって強調されています。さらに「柔らかさと円み」は、主として、大聖堂の広場の意匠に反映されています。既存樹を保護しつつ広場レベルをほぼフラットに近い面として仕上げるために、既存の根系を保護する植栽基盤を柔らかな曲線と曲面の組み合わせによる石の造形によって縁取りました。それらが重なって見える様は、さながら、白い舗装面の仕上がりの中に緑の島が浮かぶようです。その中を会員の方々や地域に暮らす方々が、ゆったりと歩を進めていく時、この場所が宗教施設であることが、あらためて想起されるのではないでしょうか。

 さて、すでに記したように今回のプロジェクトは、大聖堂周辺だけにとどまらず、境内とよべるエリアの全体を長期にわたって整備する事業の一環としてスタートしたものです。あまり知られていないことですが、この場所は、昭和の戦前期に立案された「東京緑地計画」の中では、善福寺側に沿って西から都心に向かって延びてくる楔状緑地の先端に相当しており、現在では、環状7号線をはさんで西側に和田堀緑地と善福寺緑地という大規模な緑地体が連続しています。今後ひきつづき、環状7号線沿道、ホール周辺、善福寺側の水辺環境などの整備がすすむことによって、従来のように地域に開かれた環境を維持しつつも、宗教施設としてのまとまった領域が豊かな緑の存在によって際立つことになるはずです。そのことによって、この場所は、地域を越えてより広く東京の街に開かれた存在となることが期待できるでしょう。

住所:東京都杉並区

竣工:2006.03
事業主:立正佼成会
協働/建築:栗生総合計画事務所