日本工業倶楽部は戦前の日本を代表する近代建築のひとつである。今回の建て替え事業にあたっては、全体の約1/3を保存し、それと一体化するかたちで残り2/3を復元的に再生したうえで隣接する永楽ビルヂングを超高層化している。 ランドスケープデザインの対象となった部分は、いずれもこの歴史的な建造物を核として、丸の内のオフィス街の将来像とりわけ仲通りを軸とした新しい街づくりの方針に呼応しつつ、独自の領域感を形成する街区の重要な部分をしめるものである。具体的には、以下に示す3つのエリアに関するデザインの提案を行っている ・北側貫通通路: 敷地の北側において大名小路から仲通りに抜ける貫通通路は、一般の利用に供する歩行者空間として計画されている。ほとんど日照を得ることが期待できないことや、隣接する高層建築壁面との間で圧迫感のある空間となる環境条件を緩和し、快適で安全な歩行者空間を創出するために、通路北側に沿って高さ5m程度の垂直的な緑化をほどこしたグリーンウォールを計画している。技術的には、珪藻土のブロックを基盤として、耐陰性のある数種類のツル植物を植栽したユニットをフレームにはめ込む方法を採用し、連続的な緑の垂直面を形成することが可能となっている。 ・サンクンガーデン: 和田倉通りと通りに面した位置に配置される矩形のサンクンガーデンは、将来的に丸の内の地下道ネットワークの結節点をなすことが想定されている。面積に対して高低差が大きいヴォイドの空間の特徴を活かしつつ、地上部からアクセスする階段の造形と、テラス状の2段の構成によって地上部と地下部のにぎわいをつなぐことを意図している。床面の舗装には、地上部からの俯瞰を意識した高品位なパターンを採用し、2本のサルスベリと壁面の緑化によって緑量を確保するとともに、季節の変化を演出する。また、垂直面を構成する素材は、四方それぞれの街路や建築から引用されたものが用いられており、周辺環境との調和がはかられている。 ・工業倶楽部屋上庭園 工業倶楽部屋上庭園は、階屋に新たに計画された談話室から鑑賞される平面的な庭園としてデザインされている。建物の保存部分では、屋上部の積載荷重が極度に制限される条件のもとで、周辺の高層・超高層建築か見下ろされることを意識し、明快な平面パターンを、常緑の地被植物と自然石のストライプならびに鉢植えの植物によって構成している。また、談話室回りでは、平面的な灌木の刈込の中にドウダンツツジの球状の造形を配した特徴的な植栽デザインをほどこしている。いずれも、簡便な作業による維持管理が可能となるように配慮されている。
住所:東京都千代田区
規模:81,00m2
竣工:2001.03
事業主:三菱地所
協働/建築:三菱地所設計