東京国立博物館・本館北側にある日本庭園の再整備計画を行った。博物館の150年の歴史と共に高木は巨樹となり、庭園は樹冠で覆われ暗い環境となるなど、管理の手が行き届かずに年間1.5ヶ月しか一般公開されていなかった。今回の再整備計画によって、「伝統と品格」を備えた空間を創造し、通年公開することによって、収蔵コレクションと建築群につづく博物館の3本目の柱となることを目指して基礎調査、基本構想、基本計画が発注され、それにもとづいて実施設計・施工監修を行った。
長い時間に育まれた巨樹と複数の茶室の価値を最大限に活かすことによって、伝統と品格を備えた空間を再生することを目指し、今回は次の3点の再整備をおこなった。一つ目は既存樹林の再編として、既存樹の間伐や骨格剪定を行うことにより樹林内を明るくし、林床の植物育成のための光環境を整えた。2つ目は園路の再整備として、バリアフリー対応動線の整備、樹林内に新たな回遊園路の敷設、既存茶室への石敷き園路の再整備である。3つ目は、視点場の再整備として、本館テラス前や、春草廬の茶室前などで腰掛けを設え、庭園の景観を楽しみながら佇める空間を整備した。
整備の結果、歩きやすく変化に富んだ園路に沿って四季折々の草花や新緑、紅葉などが立ち現れ、華やかな中にも落ち着いた雰囲気のもとで来園者をもてなす空間となった。人を待ち受ける腰掛けは、庭の中心となる池と博物館のあいだにあり、大判の瀬戸内海産花崗岩を敷き詰めた延段とともに、長い直線的なボリュームが庭と建築のスケールをつなぐ役割を果たしている。この腰掛けは、池周りの急な斜面を緩やかに造成して平坦部をつくり出す土留と、座って池を眺める場所の機能を併せもつ。建築壁面の色に合わせて選んだ恵那の錆石は、自然肌の部分を活かしている。池の反対側から本館を見返すと、本館の建築のスケールや素材が腰掛けを介して庭と呼応している様を確認できる。
住所:東京都台東区上野公園
規模:12,700㎡
竣工:2021.3
事業主:独立行政法人国立文化財機構 東京国立博物館